みりんさん 片口菜摘さんコラム

子どもと一緒に本みりん

アルコールが含まれるものを料理に使うなんて怖い…。
お子さんがおられるご家庭では当たり前の感情だと思います。

しかし、本みりんは実は、
“アルコール分をほぼ飛ばせるお酒” なんです。
お酒ではめったに見られない性質です。
さらに、他の側面でも子どもにやさしい調味料です。

この記事では、ちゃんと基本を押さえればお子さんに安全に優しく使いこなせるのが、本みりんですよ、という話をしていきたいとおもいます。

子どもの味覚にとってやさしい調味料“本みりん”

お料理におけるお酒の味の役割は、いわゆる旨みの素、つまりウマ味調味料です。使い方としては液体味〇素というところでしょう。実際に経験がある方もおられると思いますが、ウマ味調味料を使うと喉が異様に乾いたり、それに依存するような感じになったりする場合もあります。
しかし、お酒では味の側面においてそのようなことはなく、子どもにもやさしい旨みです。

白砂糖も同じく。甘味成分のみを極力取り出して、ストレートな甘さだけにした白砂糖やグラニュー糖は、乳幼児の繊細な舌には強すぎる刺激です。砂糖にも依存症があるのはご存じの方もおられると思います。
けれど、別の記事でもふれていますが、本みりんの甘さは米由来で複雑で奥行があり、且つ、軽く感じられるので、お子さんの舌も優しい甘さになります。さらに、砂糖の依存症の根源のひとつである血糖値の急上昇についても、本みりんは複合的な種類の糖の成分が含まれているため、血糖値の上昇も緩やかとされています。

そして、子ども目線でかなり肝心なポイントなのが、
【ボツリヌス菌のリスクがほとんどない】ことです。
本みりんは、アルコールが含まれていて、非常に糖分も高い環境下において、菌の発生は難しいです。一方で、子どもにやさしい甘さと謳われることがある、はちみつ、精製がほとんどされていない黒砂糖、メープルシロップは、ボツリヌス菌など子どもの身体に悪影響を及ぼす菌のリスクがかなり高く潜在しています。

本みりんは、アルコールは問題であるものの、そのアルコールを上手に飛ばしさえすれば、子どもの舌にも優しい、米からできたシロップに大変身してくれます。

本みりんはアルコールが飛ばせる

ここからしばらくは、世の親御さん、ひいては下戸の皆様に、本みりんなら煮切れると納得してもらうべく、しばらく詳しすぎるかもしれない話をします。

本みりん以外のお酒、例えば日本酒では、酒自体に火をつけてアルコールを飛ばそうとした場合でも3%弱残ってしまう上に、日本酒は香りの成分が加熱でどんどん飛んでしまう性質があり、正直火をかけてしまうと高価な酒ほどあまり味が残らないことが多いです。ですから、火にかけてしまうと本来の良さが損なわれるお酒がこの世の中のお酒の大半です。
けれど、本みりんはおかしなことに、酒のくせに火にかけられる前提で造られていて、火をかけられても美味しいのです。

本当にアルコールが飛ぶの?と疑う方はご安心ください。書き手の個人的な話になりますが、
私は実は下戸です。
お酒、100ccで嘔吐失神したことあります。
パッチテストは赤くなりますし、学生時代の居酒屋バイトは焼酎のお湯割りであがる湯気で酔ってしまうことが判明して辞めましたし、巫女のバイトでお神酒を注ぐのをしたら手にかかったお酒だけで酔いました。
こんな、アルコール発見器のような身体をしているから、言い切ります。

本みりんは、エキス分が40%以上あるから、単品で半分になるまで煮詰めれば、煮切ればアルコール分がほぼなくなります。

言い換えると、おおよそ半分まで煮詰める、つまり元の50%以下の質量になるまで煮詰めると、
本みりんは【蒸発しないエキス分のみ】=【アルコールはほぼほぼ飛んだ】状態になるということです。

さらには、清酒や酒粕も、本みりんと合わせて煮切れば、単体でアルコールを飛ばそうとするよりも、より風味が良く、よりアルコールが飛びます。この場合、本みりん単品と違って、お酒と本みりんの両方を合わせて火にかけても、アルコール分が飛びきらないこともあり得るため、出汁でしっかりのばしてアルコール度数を下げるようにしています。

アルコールが残るのがコワイ、という感覚も当然ですが、本みりんは、使いこなしさえしっかり覚えれば、アルコールアレルギーでない限り、アルコールを飛ばして誰でも美味しく食べられる料理をつくれるようになるお助け調味料なんです。

アルコールを飛ばす基本

本みりんはちゃんと使いこなせば、子どもにもやさしい調味料であり、お酒です。
ただし、使いこなしが肝心です。アルコールを飛ばす行為を、
“煮切る”
と言います。ここ大事。テストに出るし、一生使える大事な言葉。

また、肝心なのは、
【本みりん単体で一番最初に入れる】ことです。

ある一説では、調味料を入れる順番を指す、“調味料さしすせそ”の「さ」は、元来、“酒”だったという説があります。酒の方が料理に使われるようになった歴史は古く、鎌倉時代からと言われ、調味料の中では一番歴史が長いとされています。それを踏まえると、ごく自然な内容かと思います。

それではここで 、“調味料さしすせそ”の復習をしてみましょう。現在一般的に言われているのは、
さ=砂糖
し=塩
す=酢
せ=醤油
そ=味噌
です。

しかし、次の記事で書く、酒の調理効果を最大限に発揮し、アルコールをきっちり飛ばすには、こんな手順になります。

さ=酒、本みりん
さ=砂糖
し=塩
す=酢
せ=醤油
そ=味噌
み=みりん(ツヤ出しのみ)、水溶き片栗粉など; 見栄えを良くするもの

砂糖の方が歴史が浅いので割り込んだと考えると至極当然に思える順番です。
一般に掲載されているレシピで、この順番を無視して合わせ調味料で入れるのをよく見かけますが、それでは料理の仕上がりが少し影ってしまいます。

実際の使いこなしについては、調理効果の解説の記事、ならびにレシピ記事で記載していますので、そちらをじっくり読んでみれば、違いが一目瞭然です。

それでは、次に、どうして本みりんならよく飛ぶのかを詳細に解説していきます。

法律が“アルコールを飛ばせる”お酒を保証している

法律や本みりんの歴史など、小難しい話をいくつかしていきます。難しい話が苦手な方は飛ばしちゃってくださいね。

本みりんがアルコールを飛ばせるのは、本みりんは、
法律で【エキス分が必ず40%以上なければならない】と定められているからです。先ほどから出てきている数字ですが、ただ出来上がったものを分析して出てきた数字とは本質がちがって、【本みりんと名乗るからにはこの条件が必須です】という数字なので、本みりんと記載されている限り必ず守られています。

その、一定のレベルというのが、
【エキス分が40%以上】という規程です。エキス分、つまり糖分や旨み成分は、アルコールや水と違って蒸発するのが非常に遅かったり、蒸発せずに焦げ付いたりする成分です。現在、多くの蔵元は42~45%以上と記載している場合が多いです。
同時期に、本みりんと、みりん風調味料、発酵調味料の基準に関する法律も定められ、食品表示法でも本みりんと類似調味料の規準がしっかりと決められました。

ですから、「本みりん」と記載しているものであれば何でも煮切れて当然で、見分け方も「本みりん」と記載してあるかどうかだけを判断基準にすれば、アルコールが飛ばせるみりんを見つけることができます。

離乳食で活躍する本みりん

離乳食で子どもの食いつきに最も関わる味覚、それは、
“甘み”と“旨み”の2つです。

理由は簡単。この2つの味覚は、1歳児までの未発達な身体でも取り込むことが可能で、且つ、自然界では毒とされていない味だからです。人間の本能的に最も安心して取り込める味、それが旨味と甘味。
そして、そう、本みりんが持っている基本の味、それも“甘味”と“旨味”です。

その上、ボツリヌス菌やその他雑菌のリスクが大幅に少ない液体で、子どもが初見で嫌がるような要素を排除する力もあります。

例えば、酸味。トマトスパゲティが良い例です。トマトは鰹節と同じ旨味成分が含まれており、特に調味料や出汁がなくても十分に味がつくので、離乳食期は食塩不使用の高リコピンなトマトジュースをよく用いていました。また、パスタも麺類では珍しく、製造工程で塩分を用いらない上に、乾燥した状態で小さくしやすいので、大活躍です。
茹でたスパゲティにトマトジュースをからめるだけなのですが、やはりそれだけだとどこか味が物足りなくなってしまいます。甘みがないからちょっと軽すぎるし、うまみがどこか物足りないし、何より子どもが嫌がるような酸味が立ってしまいます。それを、【①スパゲティを茹でる⇒②沸騰した本みりんに加える⇒③トマトジュースを入れる】にするだけで、劇的に酸味が本みりんのもつ旨味でまろやかになり、大人も食べたくなる味に大変身します。

さらに、魚や肉の臭みを消してくれる効果も、子どもにとって食べやすい印象を与えてくれます。また、離乳食だとなかなか油も使えないので、トマトスパゲティに鶏ひき肉を加えようとすると、そのままではフライパンにこびりついて上手くいかないところを、本みりんの中に入れることでこびりつきにくく、そのうえ肉の臭みもアルコールが沸騰しながら持ち去ってくれます。

大人用レシピとしてミートソースをレシピ集に掲載していますが、これも本みりん以外の調味料を発達に応じて抜いて、カットトマトではなくトマトジュースだけで作れば子ども用に大活躍のレシピです。しかも、本当に本みりん以外の味付けが全然いりません。

赤ちゃんが食べやすい味にしてくれる力があるのが、本みりんだと痛感しています。ただ、使いこなしが難しい。

筆者である私もそうでしたが、子どもの食事を作るとき、きっと味覚をちゃんと育ててあげたいとか、ちゃんといいものを食べさせてあげたいとか、考える方は本当に多いと思います。特に、私の家のように、アレルギーがある子どもを持つとさらに気になります。
人生の節目で、一番食に注目がいく瞬間ではないでしょうか。そんな時に、この記事を読んで、本みりんの使いこなしについて知っていただいて、お子さんとの大事な時間をより納得がいくかたちで過ごせる一助になれたらな、と思います。